子どもマネー総合研究会

正しく恐れる

先日、乳腺外来の女医がお話される乳がんについてのセミナーに参加して来ました。

原因と考えられる要因、早期発見のためにできること、治療法の最新事情、摘出をする際に患者がどんな心境になるのかなど、基本的な知識や普段なかなか触れることのない医療の現状を知ることができました。 日本人のおよそ2人に1人がガンになるそうです。

ガンは必ずしも死ぬ病気ではありません。早期発見でかなりの生存率が期待できます。

とはいえ、治療のための負担も大きく、職場復帰が出来ても収入減となる場合もあります。 という話のあと、先生は「病気は正しく恐れることが大事」とおっしゃいました。

やみくもに恐れて生活していても完全な予防は難しく、また全く気にせず検診も行かないというのでは、早期発見で治る確率も下がってしまいます。 正しく恐れるとは、誰もが大きな病気に罹患する可能性を持っていることを知り、検診に行ったりセルフチェックを心がけること、もしそうなった時には身体面、メンタル面、経済面でどんなことが起こるかという想定をおこなって 必要に応じ対策をしておくこと。自分らしい治療の方針についての情報を集めること、などです。

「正しく恐れる」。病気に限らずこの考え方は私たちの生活を守る上でとても意味のあることではないでしょうか。

今回の1000年に1回とも言われる大震災は、ほとんどの人にとっても想定外の規模でした。 その中でも被害の著しかった沿岸部において、奇跡的な出来事がありました。 常日ごろ「津波訓練」を行っていた岩手の釜石東中学校の生徒たちは地震の際「絶対に大きい津波が来る」と確信し、先生の指示を待つのではなく自ら隣接する小学校の児童の手を引いていち早く避難をしたため、全員が無事に生き残ったそうです。 この中学校では普段防災DVDを活用していたそうで、津波のイメージを正確に捉えて適切に対処する、 つまり「正しく恐れる」ことができたのでは、と想像されます。

私たちを取り巻くリスクのあらゆるパターンを想定し、未然に防ぐのはなかなか難しいことですが、自分の場合はどんなことがありうるかをイメージし、備えることはファイナンシャル・プランニングでも重要な要素です。

リスクというと、まず思い浮かぶのは

  • 万が一亡くなってしまった場合
  • 病気やケガによる入院
  • 火災で家が燃える
  • 自動車事故で損害を受ける
  • などでしょうか。この辺りは備えている方も多いかと思います。

    これもやみくもに保険をいっぱいかければいいとか、気合いで病気にならないようにあえてそうなった場合を考えない、というのは危険です。

    リスクの影響の大きさを想定し、経済的なダメージや、何かがあっても達成したい目標のための費用を算出したうえで、住宅ローンにセットされている保障の範囲や職場の手当を調べたり、万が一のことがあったら代わりに誰かが働けるか、親族に頼ることは可能か、など細かくシミュレーションし、適正な備えをすることが安心につながります。 ファイナンシャルプランニングの中でも関心の高い分野です。

    でも、もっと身近で確率の高いリスクがあります。 「生活費の上昇リスク」です。もともと物価は長期スパンでは上がるのが普通ですが、さらに昨今の社会環境がそれに拍車をかけています。

    例えば、

  • 少子高齢化により現役世代が納める年金や健康保険の保険料負担が増えている
  • 同様に財源不足で消費税率が上がる可能性も高い
  • 生活レベルの向上で教育費や衣食住・レジャーの費用が上がっている
  • 日本は資源が少ないので原料や食糧を輸出する国の通貨高で物価に影響を受けてしまう
  • 寿命が長くなった分生涯トータルの支出が大きくなる
  • 医療費や介護費用も財政を圧迫しているので、今後自己負担割合が増える見込み
  • などが主な要因です。

    また、生涯における収入の減少も表裏一体の事象です。

  • 景気の低迷により賃金の上昇率が低下している
  • かつての年功序列・終身雇用の原則が崩れている
  • 企業の退職金、企業年金が減少や廃止の傾向
  • 公的年金の受給開始が遅くなり給付額も下がる
  • このようなリスクが広く認識されているかというと、まだまだのように感じます。 もちろん、中には生活費をきちんとセーブしている方もいれば、収入がどんどん上がっている方もいるのですべての方がリスクにさらされているとは限りませんが、団塊世代以降の若い方ほどこの傾向が強いことは強く感じます。

    生活費の上昇が自分の一生涯にどれくらいか影響があるか、ということはなかなか掴みづらいため、将来への備えをおこなうことを見過ごしてしまう方もいれば、年金は将来もらえないのではないか、という根拠のない情報を基に過度に不安になっている方もいます。 「正しく恐れる」ための情報がいきわたっていないからこそ、FPとしてはしっかりアドバイスしていきたい領域です。

    どんな対策が有効か、についてはファイナンシャル・プランニングの得意分野でもあり、またの機会に詳しく解説したいと思いますが、大事なことは自分らしい生活は自分で守るという意識です。 まずはこんなリスクがあるのだ、ということを認識すること。 そして国や会社だけに任せるのではなく、自分でもリスクをコントロールするための情報を得て、行動に移すことです。

    三陸には「津波てんでんこ」という言葉があるそうです。てんでんことは、銘々という意味で「津波の時は自分の命は自分で守れ」という教えです。 その言葉のとおり指示を待つのではなく自主的に行動した子供達が助かったこと、そして急いで逃げる中でも小学生の手を引いて行くことを忘れなかった冷静さ・心のゆとりは、日ごろの危機管理の重要性を感じます。 リスクは様々ありますが、だからこそ「正しく恐れる」を心がけましょう。 放射能のことなど次々と現れるリスクに対しても、情報に惑わされず適正に対処できるような心構えを持つことが、これからの時代を生きる私たちには不可欠なのではないでしょうか。

    波柴純子