子どもマネー総合研究会

人生の3大支出の中の教育費

「人生の3大支出」とは、世帯のライフサイクルを見たときに最も大きな支出となる、家にかかるお金(住居費)、子どもにかかるお金(教育資金)、老後にかかるお金のことです。3大支出のかけ方次第では、家計のバランスが崩れかねない要注意の支出でもあります。

もちろん、車や生命保険も累計すれば大きな支出になるし、親の介護にも人によっては費用がかかることがあります(介護のために仕事を辞めることで、予定していた収入が入らなくなる「機会費用」も含む)。でも、ここでは3大支出だけを取り出して考えてみましょう。

家、教育、老後の資金はトレードオフの関係

限られた収入でやりくりをしていく中で、家、子どもの教育、老後にかかるお金の3つの資金は、いわば"綱引き"をしている状態といえます。

背伸びをして大きな家を買って大きめの住宅ローンを借りれば、繰上返済に追われて教育資金の準備をする時間がなく、将来の子どもの進路選択にも影響しかねません。定年後も住宅ローンの返済が続くことになれば、老後資金にも影響する。退職金を住宅ローンの返済に充てれば、老後資金が目減りしてしまいます。

また、子供の進路を中学などから私立中心にしたり、塾や習い事、スポーツなどに糸目もつけずにお金をかけ続け、結果として老後資金が貯められなければ、やはり老後に影響が出ます。しかも悪いことに、老後に向けて自助努力がますます求められる時代になっています。消費税アップなどによる生活コストの上昇、年金減少、医療・介護の負担増など、しっかりと老後資金を準備しておく必要に迫られているのです。

3大支出の綱引きの結果は未来のセカンドライフ期に現れることになり、まさしく、「すべての道はローゴに通ず」(豊田作)と言えます。

定年後30年は家計を永続させなくてはいけないことを考えると、老後資金は「夫婦で正味財産3000万円」を、セカンドライフスタート時点の60歳ないしは65歳時点のざっくりとした最低目安として準備をしたいところです。我が家のすべての資産からマイナス資産(借入など)を引いた残りが「正味財産」で、個人的には「603000(ロクマルサンゼン)運動」>としてアピールしています。退職金があるならそれも含んでの目標額です。

最も慎重になるべきは住居費

三大支出のバランスを考えて暮らすためには、住居費、とりわけ住宅取得プランは慎重に考えることが大事です。住宅購入の際、物件に対する目が肥えてくると、100万円単位で予算を上げてしまうこともあります。予算をアップして住宅ローンを多く借りれば、総返済額も増え、厳密には購入手数料や固定資産税、マンションなら管理費なども上がります。

特に陥りがちなのは、共働きで子供がいない時期に、妻が働き続けることを前提に、収入合算や住宅ローンを2本組むなどして大きめの住宅ローンを組んでしまうこと。多くの場合、重いローンを背負ってしまったことを自覚するのは、子どもが生まれた後や、あるいは妻が仕事を辞めた時です。

教育や老後にお金を回したいなら、大きすぎる住宅ローンを借りないことがポイントになります。個人的には、感覚として「55歳までに返し終えることができる程度の住宅ローン」を勧めています。当初35年で組んでも確実に繰上返済できて、月々も負担にならない「軽め」の住宅ローン(返済負担率25%以内)が理想です。

負担の重くないローンであれば、繰上返済を集中的に行って教育費のピークの前に完済し、住宅ローン返済分を教育費に充てるという「戦略」を実践することもできます。過去、相談に来られた方には、2人のお子さんを私立中高一貫校に行かせるために、この「戦略」をとった方もいます。いくらの繰上返済をどれくらいのペースですれば塾代がかかる前に完済できるのか試算すればわかりますが、その後、計画的に繰上返済を行い、資金的に無理なく子どもの中高一貫校入学を実現した例もあります。

三大支出の中で住まいの優先順位が高い方は、世帯収入を上げたり、親にゆとりがあるなら親から生前贈与を受けることで、理想の家の予算に近づける方法もあります。また、子どもの教育も、進路を公立中心にしたり、大学では奨学金を利用してもらうなどで教育費を抑える方法もとることができます。

ただし、資産価値が下がりにくい物件を所有することで住宅取得が老後資金準備の一部になる場合もないとは限りません。長期×トータルで考えることも大事です。

教育費も見極める

さかのぼれば、乳幼児期の早期教育や習い事、スポーツと、子どもの教育投資は始まっています。「子どもの才能を見出すため」と、英会話、スイミング、ピアノ、バレエ、サッカーはじめ、3つ、4つと習い事やスポーツを掛け持ちさせる例も特別ではありません。小学生になると、だんだんに塾に置き換わっていきますが、習い事やスポーツをあまり減らさずに塾に通い始めると、「固定費」が増えて家計は苦しくなります。また、目先の教育投資にいそしむあまり、後半の教育資金の準備を後回しにして、一般的に貯めやすいと言われる小学校の時期に貯められない状態が続くと、後半で苦労をすることにもなります。

ゆとりある家計であれば教育に糸目なく資金を投入しても問題はありませんが、そうでなければ、無理をすると進路の選択の幅を狭めることもあります。また、教育資金が不足したからと中学・高校時代から教育ローンを借りると、その返済まで家計に乗ってくるため、後ろに行くほど家計は厳しくなります。

パフォーマンスを追求するなら、国公立中心の進路で、塾要らず、大学では給付型の奨学金をもらえるような優秀な子に育ってくれるのが多くの親の理想ですが、実際にはなかなか難しいハナシです。面倒見のいい塾要らずの学校に入れればいいですが、そうでない限り、受験の時期には、塾や予備校、家庭教師の世話になることも少なくありません。

また、就職まで考えると、「大卒」という学歴だけでは勝負しにくくなっていて、留学、大学院、MBAといったキーワードをプラスオンさせる傾向も見られます。「かける」となるとどこまででもかかり続けるのが、教育費の特徴なのです。

一方で、特に近年は、大卒の就職率も低下しています。2011年は大卒の5人に1人が定職に就けない状態でした。2012年は改善したものの、実際は中小企業への就職が広がったためです。

大学へ行く目的は就職だけではないのかもしれませんが、ゴールを「就職」とした場合、エリートとして徹底的にたたき上げる層以外は、その子の適性や性格、嗜好などから早いうちからキャリアプランをたて、希望の職業に直結する進路を進むのが合理的と言えそうです。最近は、高校でも職業に直結する学科や、企業内高校などの人気が高まっていたり、高校卒業後の進路として四大と一緒に専門学校で資格を取る選択肢も並ぶ傾向が強まっているように感じます。

すべてのツケは老後に、そして子どもに!?

住宅取得や教育費で無理をしたツケは、最終的に老後に回ります。その結果、老後資金不足から、子どもに仕送りをしてもらったりと、結局は子どもの負担を増やすことにもなりかねません。

しかし、「教育資金は奨学金」と安易に考えすぎると、社会人になった子どもたちが返済に追われることにもなりかねません。夫婦ともに奨学金を借りていて、世帯で月5万円もの奨学金を返している20代ご夫婦の家計診断をしたことがありますが、やはり家計負担は重いものでした。

3大支出と子どもの生活のバランスをはかりながら、教育プランを考えることは非常に重要なことです。ご心配なら、FPに相談し、キャッシュフローという30年超のお金の出入りのシミュレーションを1度作成してから進路を決めるのも一法です。

セカンドライフは、多くの場合、公的年金だけでは生活費が不足します。そのため、老後資金の準備も手を抜けない時代と言えます。

老後は必ずやってきます。教育を優先しながらも、三大支出のバランスを取っていくことはとても大事なことです。

ファイナンシャル・プランナー 豊田眞弓

豊田 眞弓 (とよだ まゆみ)

ファイナンシャル・プランナー、子育て・教育資金アドバイザー
経済誌・経営誌などのライターを経て、1995年より独立系ファイナンシャル・プランナー。個人相談やセミナー講師の他、書籍・雑誌の執筆や監修などで活動。オールアバウト「子育て・教育資金」ガイドも務める。自身の子育ての中で感じたこと等から、子どもの金銭・金融教育をライフワークの1つとして取り組んでいる。人生3大支出の中での教育資金や、子どもの金銭・金融教育を得意としている。

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