東京都金融・金銭教育協議会レポート<2>(アメリカの金融教育編)
特別講演は、アイオワ州立大学のK.Hira教授による「学校における金融教育:(国民に)成功をもたらすための国家戦略」です。 アメリカは、サブプライム・ローン問題から始まる深刻な金融危機を経験し、2008年に「金融リテラシーに関する大統領諮問委員会」という委員会を発足し、国民に対する金融教育に取り組んでいます。Hira教授は、その諮問委員会のメンバーの一人なのです。
なぜ、国をあげての金融教育が必要なのか。Hira教授は、「一人一人の意思決定が国家に影響するから」だと言います。 そのいい例がアメリカのサブプライム・ローン問題です。 アメリカの失敗は、自分の収入以上のものを使ってしまうという習慣がついていることでした。ローンやクレジットカードを抵抗無く使ってしまう習慣です。 もちろん、ローンやクレジットカードを使うことは悪ではありません。自分の収入を考えず、その上貯金も無く、このような借金に安易に頼ってしまうことが問題でした。 そのような習慣が、個人の破綻にとどまらず、国の金融危機をひきおこすことになったのです。 そこで、大統領諮問委員会が、金融教育の改善に取り組むことになるのです。
会場で、一人の人がHira教授に質問をしました。「アメリカは金融教育の先進国であるのに、なぜサブプライム・ローン問題のようなことがおこってしまったのか。アメリカの金融教育のどこがいけなかったのか」。 とてもするどい質問ですね。私はHira教授がどう返事をするかワクワクしました。
Hira教授は、誤った者を3者あげました。貸し手、規制当局、消費者です。 貸し手は、甘い見込みで貸し付けました。規制当局は、いろいろな金融商品が販売される中、リスクの高い金融商品等も規制せずに流通させました。そして、消費者は、金融機関などの言うままに借入れをしたり、リスクの高い商品に投資しました。つまり、金融に対する判断能力がなかったということです。
でも、プロの言うことに従ってしまうのは、もっともなことですよね。 難しい金融商品を自分で判断するのは、一般消費者にはとても難しいこと。 そこで、金融教育で身に着けるべきなのは、価値観、倫理観、計画性、自己責任だと言います。それまでの金融教育のように、事実を知識として教えているだけではだめだというのです。 中央大学高等学校の一人の生徒が言いました。「アメリカは日本のバブルを見て学ばなかったのか」。 Hira教授は「全くそのとおりだ」と言います。知っていたはずなのに、正しい行動ができなかった。それは、倫理観が無かったため。いくら事実を伝えていても倫理観がなければ、学んだことが正しい行動につながらなかったのだというのです。
最後にHira教授は言いました。 「大人が行動すれば、子供も変わっていきます。大人がモデルになれるように行動しましょう。」 確かにそうですね。クレジットカードに電子マネー、つい価値観を見失いそうになります。倫理観・計画性を持ち、自己責任で意思決定をしていくことを大人も心がけていかなければいけないですね。
金融教育は個人が破綻をしたりせずに幸せに暮らしていくためのもの、と思いがちです。 それはもちろんなのですが、それだけでなく、金融教育は、一人一人が社会を意識し、社会を動かしていく力を持つためのものでもあるのですね。
金融教育が世界を変えていくかもしれない、そんな期待を感じることができた協議会でした。
倉林美和